M&A・事業承継コラム

2026年7月最新版:入居系介護の業界動向と経営課題 

超高齢社会の最前線を走る日本において、入居系介護市場は2026年に向けて14兆円という巨大な規模へと拡大を続けています。しかし、需要が過去最高を更新し続ける一方で、介護業界は「慢性的な人材不足」「国が主導する制度の抜本的改革」という、かつてない荒波の直只中にあります。

本記事では、介護・福祉施設の経営層や経営企画担当者様に向けて、入居系介護業界の課題の本質と、有効な成長戦略・出口戦略としてのM&A(事業承継)について、最新の動向を交えて解説します。

目次

拡大する市場とは裏腹な介護の現状

介護施設の数は年々増加傾向にあり、有料老人ホームや特別養護老人ホーム、グループホームなどが地域のインフラとして機能しています。しかし、市場規模の拡大とは裏腹に、業界の競争ルールは「需要の獲得」から「供給制約(人材不足)の克服」へと完全に移行しました。

約25万人の介護人材不足という「供給の制約」

団塊の世代が後期高齢者となる2025年を経て、2026年度には全国で約25万人の介護職員が不足すると推計されています。

これは、中規模都市の労働人口に匹敵する数字であり、全国の介護施設で平均1〜2名の欠員が常態化することを意味します。

「入居希望者はいるが、スタッフがいないため受け入れられない」という事態が、すでに多くの施設で現実のものとなっています。

トレンドの変化と成長の二極化

また、市場のニーズも変化しています。

一般的なサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)やグループホームの増加が頭打ちになる中、「緩和ケアホーム(ホスピス住宅)」の増加が顕著です。

大都市圏において、住宅型有料老人ホームと訪問看護・介護を組み合わせた仕組みを用いることで、自治体による総量規制(新規開設の制限)を迂回し、医療依存度の高い終末期ケアニーズを取り込む高度なビジネスモデルが台頭しています。

このように、戦略の有無によって事業者の成長スピードは明確に二極化しています。


国が主導する「データ駆動型経営」への淘汰圧力

2025年から2026年にかけて、介護業界の経営環境を激変させる要因が、国による一連の制度改革です。これは単なるルールの変更ではなく、「データ駆動型経営とICT化」に対応できない事業者を淘汰する、強烈な包囲網と言えます。

異例の「2026年臨時報酬改定」が意味するもの

通常3年サイクルの介護報酬改定が前倒しされ、2026年に+2.03%の「臨時改定」が実施されます。その目玉は、介護従事者全体を対象とした処遇改善加算の大幅な拡充です。

月額最大1.9万円の賃上げを可能にする上位区分(加算Ⅰロ・Ⅱロなど)を獲得するためには、「見守りセンサー等の生産性向上推進体制加算の取得」や「ケアプランデータ連携システムへの加入」といったDX化が必須要件とされています。

つまり、国は「賃上げの原資」をインセンティブとし、アナログな経営体質からの脱却を強制しているのです。

これに対応できない施設は、近隣施設に採用競争力で競り負け、「低処遇で職員が集まらない→既存職員が疲弊し離職→稼働率低下」という負のスパイラルに陥ることになります。

経営情報報告の義務化と「新LIFE」の稼働

さらに、2025年1月より「介護サービス事業者経営情報の報告」が原則すべての事業者に義務化されました。

GビズID(デジタル庁が運営する法人・個人事業主向けの共通認証システム)を用い、収益・費用・職種別人員数などの財務情報を電子報告しなければなりません。未提出の場合は指定取り消しや報酬減算のリスクがあります。

これにより、自社の利益率や人件費率などの経営実態が、国によって完全に可視化されます。

加えて、2026年春には電子証明書等でセキュリティを強化した「新LIFE」へ移行し、クラウド上で情報共有を行う「介護情報基盤」が本格稼働します。ITリテラシーの欠如は、市場からの孤立と、コンプライアンス上の重大なリスクに直結します。


成長と存続を分けるM&A・事業再編戦略

人材獲得競争の激化と、制度改正への対応を自社の単独努力だけで乗り越えることが困難な時代において、経営の安定と成長を実現する最強のカードがM&A(事業承継)です。

M&A市場では現在、それぞれの課題解決に向けた情報収集や案件探しが活発化しています。以下に、譲渡(売り手)側と譲受(買い手)側の一例を記載します。

譲渡(売り手)側

  • 代表者の例
    ・地方で経営の特養・グループホーム創業者

  • 抱える課題
    ・後継者の不在
    ・慢性的な人材不足と求人費の高騰
    ・ICT化や経営情報報告義務化に対応する資金とITリテラシーの不足

  • M&Aに求めるもの
    ・自施設の適正相場を調査したい
    ・長年苦労を共にした従業員の雇用と理念を守り、事業を託せる大手法人を探したい

譲受(買い手)側

  • 代表者の例
    ・全国展開中の上場会社

  • 抱える課題
    ・特養等の新規開設が総量規制により不可能
    ・PMI(買収後統合)の手間とリスクを抑えたい

  • M&Aに求めるもの
    ・ドミナント戦略の推進
    ・総量規制の影響を受けない買収案件を探したい
    ・自社のICT・再生ノウハウを投入し、稼働率に改善余地のある施設を取り込みたい


次のフェーズへ進むための具体的なアクション

M&Aは決して「事業の失敗」や「弱者の救済」ではありません。経営におけるM&Aの本質は、「時間を買い、限られた経営資源を最大化する合理的な戦略」です。

譲渡(売却)を検討する経営者様へ

もっとも避けるべきは、意思決定の遅れによる企業価値の毀損です。

2026年の臨時改定で求められる特例要件(DX推進)に対応できず、稼働率が低下してからでは、有利な条件での売却は困難になります。

また、経営情報報告の義務化により、利益率の低さが客観的指標として露呈してしまいます。買手企業の意欲が旺盛であり、病床や施設枠(総量規制エリア)のプレミアムが高く評価されている「今」こそが、最も高値で事業譲渡できるベストタイミングです。

まずは、自社の事業価値が市場でどのように評価されるのか、専門機関を通じて適正な相場を調査・算定することから始めてください。

譲受(買収)を検討する法人様へ

新規開設のハードルが高い現在、ターゲットとすべきは「立地や建物は優れているが、ITリテラシーの不足によりLIFEや生産性向上加算を取得できていないポテンシャルの高い施設」です。

買収後、速やかに自社のICTツールを横展開し、2026年新設の処遇改善加算を取得して職員給与を引き上げる。これにより離職を防ぎ、利益率を劇的に改善させる「V字回復の再生モデル」を構築することが、今後の成長の鍵を握ります。

優良な非公開案件情報をいち早く取得するためのネットワーク構築を急ぐとともに、新制度への対応状況を見極める精緻なデューデリジェンス体制を整えましょう。

現状維持は最大の経営リスクとなる時代です。

2026年に向けた激動を生き抜き、さらなる成長を遂げるために、まずは自社の立ち位置を客観的に把握し、M&Aという選択肢に向けた情報収集を開始してみてはいかがでしょうか。

参考情報・引用元リスト

厚生労働省:介護保険制度の概要、令和7年度予算額 介護給付費・総費用ベース
https://www.mhlw.go.jp/content/001512842.pdf

厚生労働省:介護人材確保の現状について(2026年度に約25万人の介護職員不足推計)
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001485589.pdf

厚生労働省:介護サービス事業者の経営情報の報告・公表
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001347718.pdf

矢野経済研究所:2026 有料老人ホーム参入企業業績データ
https://www.yano.co.jp/market_reports/listMr.php?class_code=15

GemMed:2026年度の臨時(期中)介護報酬改定
https://gemmed.ghc-j.com/?p=72084

執筆パートナー

ウィザーズグループ

パートナー情報

コスト削減やM&A等を通し、限りある経営資源を最大化する「実働」コンサルティング集団

WEBページ

https://www.wizardz-plus.jp/

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